池上彰の講義の時間 高校生からわかる「資本論」 読書会 プレ感想

 さて、前回の反省を活かし、読書会に参加する前の感想、国語の授業でやるいわゆる初見の感想を書き記しておこうと思う。

 非常に読みやすい文体で良かった。最初に「マルクス・レーニン主義」とマルクスが主張した「資本主義」は違うものだ、と説明があった。私は、マルクス主義や共産党には、過激な活動家やSEALDsなどの左翼イメージしかなかったので衝撃だった。

 「資本論」は書籍としては読んだことがない。普段、読むようなジャンルの本でもないので、まったくの範疇外だった。こういった本を読む機会を持てるのが、読書会のいいところだと思う。

 読み始めてから、NHKの「100分で名著」の資本論の回を視聴していたことに気がついた。概論が頭に入っていたこともあり、わかりやすかった。

・労働時間に価値がある

 労働時間が商品として売り出されている、という考え方は、なるほど理にかなっている。NHKの番組『お金と感情と意志決定の白熱教室』で行動経済学のダン・アリエリー教授が提示した「人は技術ではなく労働時間に金を払う」という実験結果とも合致している。

 アリエリー教授によると、鍵開けサービスに対するチップの実験で、「技術があり、あっという間に鍵を開けられるベテラン」よりも、「技術がなく、鍵を開けるのに何時間もかかる素人」の方が多くのチップをもらえ、稼げる結果が出るそうだ。

 これはまさに顧客が「鍵を開けるサービス」ではなく、「サービスにかかる時間」を買っていると感じるために、「より質の高いサービス」よりも「より長い時間」に高い値段がつくのである。

 これは、労働者にとっては大変なジレンマを産み出す。技術力は高付加価値になるはずだが、同時に時間短縮は労働価値を下げる。

 そして、経営者にとっては、技術力のある単価の高い労働者よりも、技術力がなく単価が安い労働者の方が使いやすい、という話になってくる。そうなると技術力を付けること自体が無駄になり、おそらくは高技術力を売りにする上層階級と低技術力を売りにする下層階級に二分化する。

 このスパイラルに入ってしまうと、下層階級の労働賃金は次世代の労働力の再生産ができなくなる水準まで低下し続け、資本主義は破綻に向かうしかないように思える。事実、日本の少子化の原因の一つは労働賃金の低下にあると考えられる。

・諸悪の根元は資本主義ではなく、拝金主義かもしれない

 資本主義の根底に「金が多いことは、いいことだ」という拝金主義がある限り、資本の自己増殖を抑えることは不可能であろう。

 資本主義に手詰まり感がある現状を変えるには、「いい物をより安く」ではなく、「よいものを、より高く」と労働者であり、提供者でもある、私たち消費者自身の考え方を少しずつでも変えていくしかない、と思う。

 この傾向は僅かながら、すでに現れてきていて、具体的にいうと、女性誌などで特集されるプチ贅沢やら、自分へのご褒美やらの、小さなものから、大きな物は九州鉄道の豪華客車「特急 A列車で行こう」などがある。九州鉄道の取り組みは、全国的にも注目されている成功例で、「高価格でも、よいサービスを受けたい」という消費者マインドは確かに存在している。

 物の価値の決め方を「安ければ安いほどよい」ではなく、「品質に見合った値段を払うべきだ」という風に変えていけば、少しずつ経済は変わっていくのではないだろうか。

 そのためには、もちろん、経営者側にも「品質の高い労働には高い給料を払うべき」と、意識改革が必要となるだろう。つまり、「よいものを、より高く」だ。鶏と卵論争になってしまうが、経営者が品質コストを極限まで抑えようとするのには、消費者の「とにかく、より安い製品を求める心理」があるのだから、どちらも変えていかなければ、現状を打破するのは難しいだろう。

・女性の職場進出について

 労働市場に売り手である労働者が増えると、需要と供給の関係で労働力の市場価値が下がり、労働賃金は下落する。女性としては、「女性の職場進出により、労働者の数が増えて男性の労働賃金が下落した」という論調は、納得すると同時に承服しがたい。

 さすがの池上彰氏も男性であるためか、女性学/男性学/ジェンダースタディ的観点は弱く、女性の労働市場への進出にマイナス面を強調するきらいがある。

 生きていくために金が必要である限り、自分が生きていくための金は自分で稼ぐべきだ。少なくとも、その手段は選択肢の中に用意されていてほしい。

 女性学の観点から言えば「私が働くかどうかは、私が決める」という、自己決定権が重要とされる。現状、女性は自己決定権をある程度は手に入れたと言えると思うが、男性はこの自己決定権をいまだ手に入れていない。

 男性だって、「私が働くかどうかは、私が決める」と言っていいはずだ。「男性だから働かなくてはならない」と決まっている今の日本社会は男女不平等である。

 女性が職場進出するなら、男性だって家庭進出、要するに家事労働や地域社会への進出をしていいはずだ。男性だって扶養家族として働かない生き方を選択できるようにするべきなのではないか。そうすることで、男性の労働者の数が減れば、労働力の過剰供給は是正されるのではないか。

 ちなみに、労働力として移民を入れるのは労働者の観点から言えば論外である。現状、日本人の失業者がいるのに、コストカット目的で外国人労働者を入れられては、たまらない。

 経営者は労働者に金を払いたくないかもしれないが、自社製品を売るためにも、労働者には金を払うべきだ。労働者が金を持っていないなら、一体全体、誰が製品を買えるのだ。

 そんな展望もないようなら国の経済は破綻するしかない。グローバル化なんて、本当はクソ食らえで、できることなら国内で経済を回していった方がよいのだ。労働賃金の低コスト化を進めていけば、商品を買う人はいなくなってしまうし、本に書かれていたように労働者の再生産力は著しく低下する。日本だって低賃金化により、出生率が低下している。

 閑話休題。女性に「働く自由」がなかったように、今、男性には「働かない自由」がない。男性も「働かない自由」を手に入れてしかるべきである。

 事実として、女性の職場進出が進んでいるフランスでは出生率が回復し、現在ではイギリスほか先進国で女性の職場進出が進んでいる国家では出生率が回復している。

 これは、女性の給与が高くなり、「男性は女性を養うべき」という社会的コンセンサスが崩壊することで、高収入女性と低収入男性のカップルの選択ができるようになったためではないだろうか。

 夫婦間の出生率は日本でも横這いであり、出生率低下は婚姻率の低下に原因がある。現在、日本では女性の給与に関して「見えない天井」があり、高収入女性が少ないため、相対的に増えている低収入男性とのカップリングができなくなっている。

 女性の職場進出と同時に男性の家庭進出を押し進めていくべきである、というのが、私の考えである。

 

 話は逸れるが、出生率はなぜ女性一人当たりで数えるのだろう。

 言うまでもなく、現在の科学技術では女性だけでの出産は不可能である。なぜ、男女一組あたりで計算しないのか。現状、日本は一夫一婦制をとっているのだから、子供の誕生に父親を含めないで考える社会構造はおかしいのではないだろうか。

 まあ、同性愛の方でも子供を持っている方々はいらっしゃるので、一概に男女一組あたりで考えるのにも問題があるかもしれない。けれど、現状ビアンの子持ちカップルでも精子提供者の男性はいるのだし、やはり男女一組あたりで考えるのが妥当なのではないかと思う。

・学ぶことは楽しい

 今回の、課題図書を読んでから、経済系の記事の理解度が目に見えて上がったように感じられる。しかし、それは私にとって仕事や趣味ですぐに役立つような「実学」ではない。

 小学生の頃、国語の先生に「人はなぜ学ぶのか。それは、物を知ることは楽しいからだ」と言われた。また、トリビアの泉で有名な「人間は無用な知識が増えることで快楽を覚えることのできる唯一の動物である」、本当はバートランド・ラッセルの言葉で「役に立たない知識から得る喜びは大きい」が正しいらしいが。今回の読書は、これらの言葉を強く思い出させるものだった。

 社会や国が人間の集合体である限り、草の根的な意識革命は個人の深層心理で起こっているものと私は考える。本人でさえ気づかないような、ひっそりとした動きと速度で。もし、資本主義が極致に達して崩壊あるいは何らかのコペルニクス的転回(パラダイムシフト)を迎えるのなら、こういった知識の広まりは、その中途の一歩になっているのかもしれない。

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※追記

 読んで三ヶ月以上たったから言えることだけど、これはマルクスの『資本論』に触れたことがない人は絶対に読むべき本。

 この本を読んで、資本論の考え方に触れてから経済ニュースや世の中の見方が変わった。同じ現象を見ていても、見えてくる景色が全然違う。資本主義経済の社会に活きている以上、騙されたと思ってみんな読んでおくべき。っていうか、レビューここまで読んだんだから、読め。読むか読まないかで、あなたのこれからの人生が決まる。

 ちょっとズレるけど、資本の話だからここに一緒に呟いておく。アンドヴァリの指輪(ニーベルンゲンの指輪、ラインの黄金とも。持ち主に金を運んでくる指輪だが、小人アンドヴァリの呪いがかかっていて、持ち主に不幸をもたらす)は、現代では資本という名前で、使う魔法は『複利の魔法』なんだろうな、と山室 静さんの本を読んでいて、ふと思った。

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