『ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること』

ニコラス・G・カー

 「インターネットの中心である『ハイパーリンクテキスト』と『通常の本』とでは、読んでいる時の脳の働き方に大きな差がある」。この命題を中心に、口伝(くでん)から分かち書き無しの文字へ、そこから分かち書きへ、さらに、写本から活版印刷へ。レコードや映画、ラジオ、テレビなど、メディア媒体が私たちの脳、ひいては考え方や能力そのものへ及ぼす影響を書いた本です。

 脳科学や実験、実際の論文引用の傾向、インターネット検索の提供会社であるGoogleの基本思想などを引いて、わかりやすくインターネットが脳に及ぼしている影響を紹介しています。

 私も、日頃よくインターネットを利用していて、ネット無しの生活は考えられなくなっています。その一方で、ネットの情報はどうしても断片的で、全体的な系統だった知識を手に入れるのには不向きであるとも感じています。

 特にサイトではなくブログ形体だと、面白い記事を書く人でも目次(インデックス)を設けない人がほとんどです。その人の記事をもっと読みたいと思っても、どうでもいい日常話などに埋もれて、目的の話題を発掘するのにかかる労力が半端ではありません。そして、ほとんどの場合、途中でそれ以上の検索を諦めてしまいます。twitterは断片化の最たる物で、「140文字で何が言えるか!」と、いつも思っています。

 閑話休題。通常のテキストをハイパーリンクテキストに変換しただけで、脳の認知機能が大幅に低下することを初めとして、本書では様々な事例を取り上げています。しかし、著者も認めているように、インターネットの検索技術が便利であること、便利すぎることもまた事実なのです。結局はバランスの問題で、「インターネットで検索して、関連本を二、三冊読む」というのが、現状一番よい利用方法なのではないか、と私自身は考えています。

 インターネットと比較して、「本を読むこと」の利点が大きく取り上げられています。読書会に参加するほど本が好きなあなたに、そうでなければ、読書会に参加して「本を読もう」と考えているあなたに、「本を読む利点」を最大限に教えてくれる本だと思います。

 最後に少し長いですが、同書から小説を読む効用部分を引用して紹介を終わります。

 ワシントン大学動的認知研究所が行い、二〇〇九年の『心理科学〔Psychological Science〕』誌に発表された注目すべき研究では、小説を読む際に脳内で何が起こるかが、脳スキャナーを用いて調査されている。その結果、次のことがわかった。「物語内で出会う新しい状況を、読み手は心的にシミュレートしている。テクストから把握された行動や感覚の詳細が、過去の経験から得られた個人的知識と統合される」。脳のなかで活性化される領野は、「現実世界で同様の活動を、行ったり想像したり、観察したりする際に使われる部分」であることが多い。「深い読み」は、この研究のリーダーであった研究員、ニコル・スピアの言葉によると、「受動的行為ではまったくない」。読者は本になるのだ。

 本の読み手と書き手とは、つねに高度に共生的な関係にあり、その関係は知的・芸術的に交流の手段となっている。書き手の言葉は読み手の精神のなかで触媒として働き、新たな洞察、連想、知覚、およびときには啓示をも触発する。そして、批判的で注意深い読み手がいるからこそ、書き手の意欲は刺激される。だからこそ作家は自信を持って、新しい表現形式を探求し、困難で厄介な思考の道を切り開き、ときに危険でさえある海図亡き領域へと飛び込んでいくことができるのだ。

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