『ワールドエンド・エコノミカ 1』

シナリオ:支倉(はせくら) 凍砂(いすな)

 こちらは、同人のPC向けノベルゲームです。ノベル"ゲーム"ですが、ワールドエンド・エコノミカはゲーム性はなく、挿絵と音楽がついた小説だと思って貰えれば間違いないです。ご自宅にパソコンのない人に当たってしまったら、ごめんなさい! その場合は、宇都宮の図書館に電撃文庫版の蔵書がありますので、そちらをお読みください。

 参加した人も多いかと思いますが、八月に読書会の課題図書として池上 彰さんの『高校生からわかる資本論』を読みましたね。私はそれまで、資本論にほとんど触れたことがなかった為、正直に言って、あれから自分の生活周辺の経済観が、がらっと変わってしまいました。見えてくる光景が一変したと言っても良いくらいです(人生観が変わる本として、『高校生からわかる資本論』を推したいくらいなのですが、この本は読んだ方が多いかと思いますので、やめておきました)。

 そして、現状の資本主義が労働者に不利なら、いっそのこと資本家になろうと思いました。「ご飯がないなら、お菓子を食べればいいじゃない!」のノリで、「労働者がダメなら、投資家になればいいじゃない!」というわけです。幸い、現代の株式市場の仕組みでは大金を持っていなくても株券を購入することができますし、月々500円から始められる積み立ての投資信託サービスもあります。

 「株式投資やってみたいなら、講演会や投資方法の本を読むよりも、『ワールドエンド・エコノミカ』を読んで、少額投資で勉強するのがいいよ」と言う書評を読んで、手に取りました。作者の支倉さんは、『狼と香辛料』で有名になった方で、『狼と香辛料』も「ライトノベルに初めて経済小説を持ち込んだ」として話題になりました。

 『ワールドエンド・エコノミカ1』は、いわゆるデイ・トレード、スウィング・トレードを扱った話です。「安く買った株を高く売り、その差額で儲ける」株式取引を中心に話が展開します。

 「誰も足を踏み入れたことがない前人未踏の大地に立ってみたい」という夢を抱く少年ハルは、資金を調達するための手段を株式市場に求めます。それなりに成功していましたが、一方で行き詰まりも感じていました。

 そこへ、数学の天才少女ハガナとの出会いが訪れます。養母に借金を抱えさせ、「自分の才能は、なんの役にも立たない」と思い悩んでいるハガナに対して、ハルは持ちかけます。「俺の株式投資に協力してくれないか」と。

 ハガナの数学の力を使ったプログラムで、ハルの株式投資は成績を伸ばしていきます。しかし、数学の公式は「誰がやっても同じになる」からこそ公式なのです。「自分はなんの役にも立っていない」という悩みは、今度はハルに向かって牙を剥き、襲いかかってきます。

 それでも二人は協力し、ハガナ達の借金を返すために、ハルは最後の大博打に挑みます。信じるべきは、自分か、ハガナか、はたまた尊敬する投資家か。

 賭けの結果はどうなるのか、ハガナ達は無事に借金を返すことができるのか。ハルは最後に誰を信じて賭けに挑むのか……。

 株取引の基本である売り買いの説明から始まって、信用売り、信用買い、レバレッジなどの機能の説明もあり、話の展開とあいまって非常にわかりやすいです。

 何より、話自体が面白く、泣けます。主人公はちょっとハスに構えた嫌な奴ですが、最初だけなので我慢してください。

 株式市場に興味がある人も、「そんな危ない橋は絶対に渡らない」と考えている人も、どうぞ、最後まで読んでみてください。

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